2008年3月13日木曜日

KIの映画評 vol.17



アメリカ映画を2本紹介。ハリウッド映画ってちょっとね、みたいなのが私の中にあるのだけれど今回は力作を2本。両方とも今年のアカデミー賞主演男優賞を競っていたが、軍配は『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』のダニエル・デイ=ルイスにあがり、『フィクサー』のジョージ・クルーニー(私は好きなのだけど)は、賞を逃した。(KI)

■ 『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』★★★☆☆

 重~い映画だ。見渡す限り荒野が広がる20世紀初頭のカリフォルニア。しがない鉱山 労働者が石油採掘によって次第に冨と権力を手に入れていく姿が壮大なスケールで描き出される。泥まみれになりながら石油をさがして大地を掘り続ける山師たち。荒涼とした風景の中で繰り広げられるその世界で、成功とともに暴力的で強欲な狂気のモンスターと化していく男を演じるのはダニエル・デイ=ルイス。その濃~い演技もさることながら、映画のクライマックス、大地を揺るがし、石油が噴き出すシーンは圧巻!アメリカンドリームを突き動かし、主人公の魂を毒してきた欲望という名の闇の力、あふれ続ける真っ黒な石油はまるで血のようで身がすくむ。
 主役のダニエル・デイ=ルイスは、1971年に映画デヴュー、引き受ける役柄を選び抜き、一時は俳優を休業し靴屋の修行をしていたという。出演した映画は多くはないがそのたびに批評家をうならせ、アカデミー賞主演男優賞へのノミネートは4度目。今回、89年に『マイ・レフト・フッド』で受賞したアカデミー賞主演男優賞を再び本作で獲得した。
 興味深いのは、主人公と確執を繰り広げるカリスマ牧師を『リトル・ミス・サンシャイン』の主人公の兄役で注目を集めたポール・ダノが熱演していること。前作とは全く趣きの異なる狂信的で攻撃的な牧師を演じ切り、ダニエル・デイ=ルイスと渡り合って注目を集めた。
映画は、2時間38分という長大作。見終わった後にがっくり疲れが出るのは、北野たけし主演の『血と骨』を見たときに似ているかも。 

■ 『フィクサー』★★★☆☆

 ニューヨーク最大の法律事務所が請け負った3000億円にのぼる巨大製薬会社の薬 害訴訟、全米を騒然とさせたその訴訟にまつわる隠ぺい工作を依頼された弁護士事務所に所属する”もみ消しのプロ”(フィクサー)、マイケルが足を踏み入れてしまった壮絶な闇の世界。事態が進む中で彼は企業の隠ぺい工作にとどまらない巨大な陰謀に巻き込まれていく。
 マイケルを演じるジョージ・クルーニーは、スマートな窃盗団のお話の『オーシャンズ11』(2007年には『オーシャンズ13』もでてるわね)などたくさんのヒット作に出演するハリウッドスター。でも彼の映画で私が好きなのは、「グッドナイト&グッドラック」(2005)や「シリアナ」(2004)など社会派の映画。「グッドナイト&グッドラック」は、”赤狩り”の嵐が吹き荒れる1953年のアメリカを舞台に時の権力者に立ち向かったTVジャーナリスト、エド・マローや実在のジャーナリストたちの物語。ジョージ・クルーニーは、監督、脚本を手がけ、本作でアカデミー賞助演男優賞を受賞している。あえて全編モノクロの映画として撮影され、それがかえって、あの時代をほうふつとさせ、臨場感が伝わってくる。おすすめの映画のひとつ。
 さて、『フィクサー』では、彼はアカデミー主演男優賞をのがしたが、共演のティルダ・スウィントンは本作で助演女優賞を受賞した。彼女は、巨大製薬会社の企業内弁護士として極度のプレッシャーを受ける中で、追い込まれていく役をリアルに演じている。彼女はこの役を演じるにあたり、エリート企業内弁護士の女性何人かに話を聞いたという。「彼女たちは、失敗をとても恐れ、助けを求めないでちゃんとできることを証明することに取りつかれている。なぜなら女というだけで弱いと思われることをもっとも恐れているから」と語るティルダ・スウィントンの迫真の演技は、一見の価値あり。