2008年1月6日日曜日

KIの映画評 vol.15

どんなお正月をおすごしでしたか?昔と違ってお店は、たいてい元旦から開いていましたね。それだけお正月も働いている人が多いってことで、働いていた皆様本当にお疲れ様でした。年の初めの今回は、にぎやかなお正月映画でなく、生きる基本、食べ物の映画を2本。(KI)

■ 『いのちの食べかた』★★★★☆

 とにかく不思議な映画だ。野菜、果物、鶏、牛、豚…、それらが収穫されたり、解体されたりする画面が次々と現れる、オーストリア、ドイツ合作のドキュメンタリー。私たちが毎日普通に食べている物だが、どの映像も今まで見たことがない。
 ナレーションもインタビューもなく、進行する作業の光景が淡々と続く。ピッチングマシンのような機械で運ばれるヒヨコたち、自動車工場のように次々と無駄なく肉に加工されていく豚や牛。
 時に目を見張るほど美しいその画面が鮮やかに映し出すのはグローバル化時代の食品生産の現状だ。ニコラウス・ゲイハルター監督は、その現状を告発するというのでなく、ただその現場を見せるために淡々とこの映画を進行させていく。
 森達也監督は本作の解説で、「食とはいのちの矛盾を咀嚼することでもある。…忘れないこと。意識におくこと。目をそむけないこと。凝視すること。そのためにこの映画はある」と語る。
 パリ国際環境映画祭グランプリ、アテネ国際環境映画祭最優秀作品賞など、世界各地の映画祭で話題になったのもうなづける。この映画の現場を見ないまま肉を食べていてはいけないんじゃない? そんな気にさせられる。

■ 『ファーストフード・ネイション』★★★☆☆
 
 世界20カ国140万部を超える伝説のベストセラー・ノンフィクション、同名の原作(日本では「ファストフードが世界を食いつくす」)をもとに制作されたこの映画のコピーは、「世の中には知らないほうが幸せなことがたくさんあるんだよ」。
 利潤の追求に専心するハンバーガー・チェーンの本社幹部。劣悪な労働条件の下、下請けの精肉工場で酷使されるメキシコからの不法移民。ファーストフード店で時給をかせぐ学生アルバイトたち。三者三様の日常が、“牛肉パテへの大腸菌混入”という事実が明らかになったことにより交わり、その中で“食の安全性”、“格差社会”、“環境破壊”など、現代社会の病巣があぶり出されてくる。
 2006年カンヌ国際映画祭・コンペティション部門に出品され賛否両論を巻き起こしたというが、こういう映画に、「リトル・ミス・サンシャイン」の父親役でいい味を出したポール・ダノ、「ビフォア・サンセット」のイーサン・ホークなどをはじめとする豪華俳優人が多数出演するというのもすごいことだ。役者たちにマクドナルドからの圧力はなかったのかしらとちょっと心配になる。