時にはフィクションが、実際に起きていることよりも、もっと現実を映し出すことがある。それを見ることで何かを体験してしまうような、自分のリアルな記憶 として心に残り続けるような…。今回紹介するのは、フィクションで、とびきりのエンタテインメント作品でありながら、たくさんの現実が織り込まれた2作。 (KI)
■「それでも生きる子供たちへ」★★★★☆
原題は、「All the Invisible Children(見えない子どもたち)」。130分の映画の中に、7つの国の子どもたちが登場する。ブ ラジル、イギリス、アメリカ、セルビア・モンテネグロ、ルワンダ、中国、ひとつのパート20分足らずのドラマにそれぞれのかけがえのない個としての彼らの 生き様が描かれる。ストリートチルドレン、HIV体内感染、少年兵士など容赦のない現実の中で生き抜く子どもたち、見終わった後、彼らの一人ひとりが心に 入り込んで、忘れようにも忘れられない存在となる。監督は、「シティ・オブ・ゴッド」のカティア・ルンド、「マルコムX」のスパイク・リー、「アンダーグ ラウンド」のエミール・クストリッツアなど、この企画を7カ国の巨匠たちが引き受けた。それぞれの監督の魅力も際立ち、短い時間に自分の世界に引き込む手 際はさすがだ。世界中の子どもたちの窮状を救うためのひとつの手段として作られたこの映画の収益は、全額、ユニセフとWFP国連世界食糧計画に寄付され、 子どもを救う助けのため活用されるという。6月公開。
■「パッチギ!LOVE&PEACE」★★★★☆
前作は、1968年の京都を舞台に在日朝鮮人と日本人の恋やケンカを描き、青春群像劇として2005年度の主要映画賞を総ナメにした。今 回は、1974年の東京、枝川を舞台に物語が展開する。あい変わらず殴りあいで始まるこの映画、井筒監督はこういうシーンがよっぽど好きなんだろうと思う んだけれど、でも映画を見ていく内、この殴り合いの痛さよりも、心のほうが、数倍痛いと思う場面に次々出くわす。前作のヒロイン役、沢尻エリカが「映画だ けど映画じゃない、事実を伝える最高の教科書みたいなもの」と言う通り、今回の映画にも、学校の教科書では教えないたくさんの事実が盛り込まれている。こ の中で明らかにされる日本社会での在日の存在のさせられ方は、常々、親しい在日の友人たちから聞かされてきた。そういう意味では、1974年が舞台と言い ながら、この物語は今の日本社会にもそのままつながっている。映画の中で、重ねて描かれる1944年の南洋諸島での日本軍のドラマは、封切られている映画 の「君のためにこそ死にに行く」なんていうコピーがどれだけリアリティのないものかをはっきりさせるだろう。今、この国で一緒に生きているのは日本人だけ じゃないのだと、まずわかるためにも、自分の周辺に「在日」がいない(と思っている)人にぜひ見て欲しい。5月19日全国一斉ロードショー。